グリーン水素は化石燃料よりコスト安になるのか?南米やアフリカでの投資動向は?

 チリのファン・カルロス・ジェベット・エネルギー相は日本経済新聞の取材に対し、再生可能エネルギー由来のグリーン水素について、10年以来に化石燃料より安価になるとの見解を示した。

 現在、チリでのグリーン水素は1キログラム当たり製造コストが4~5ドル(約450〜570円)程度。ジョベット氏は「今後10年で1.5ドルまで下がり、原油天然ガス、石炭よりも(価格面で)競争力を持つ」と話した。また化石燃料に比べ、価格の変動が少ないこともメリットとして挙げている。 

世界で流通する水素は天然ガスなど化石燃料由来の「グレー水素」が大半を占める。製造技術が確立されており、1キロあたり1~2ドルで生産することができるが、COP26で議論された通り、今後炭素の価格が上昇するにつれてグレー水素についても価格が上昇する可能性が考えられる。

 

仏・独王手は南米プラントに投資

 欧州企業が南米やアフリカで再生可能エネルギー由来の「グリーン水素」の製造に動き始めている。グリーン水素は水を電気分解して酸素と水素に分離し、その過程を再生可能エネルギーで賄うことで、汚れた副産物を出さずにガスを生成する。

 太陽光・風力発電の適地が多く、製造コストが低いことから南米やアフリカのプロジェクトが始動しているようだ。チリ中部から北部の砂漠地帯は太陽光発電の適地で、南極に近い南部では風力発電が盛んなんだそうだ。チリ政府はこれらの地域でグリーン水素やグリーンアンモニアの製造プラントを建設し、世界中に輸出する計画を立てている。

 フランスの電力大手エンジーは南米チリのグリーン水素プロジェクトに20億ドル以上の投資を検討している。2025年までに北部の砂漠地帯で太陽光パネルから水素を製造するプラントを稼働する計画を皮切りに、施設の大型化を目指している。

 水から水素を製造する水電解装置で世界大手の独・シーメンスエナジーはポルシェなどと共同で水素と二酸化炭素から作る合成燃料のプラント建設プロジェクトをチリ南部で始動した。通常のガソリンと同じように利用でき、CO2の排出量を9割減らすことができる。プライスウォーターハウスパース(PwC)と世界エネルギー会議によると、20年地点でチリのグリーンエネルギー水素製造コストは1キログラム当たり3.5~3.75ドルで世界最安のレベルとなっており、日本よりも4割程度安く製造できるそうだ。

 クリーンエネルギー関係の投資先として商社では三井物産、メーカーでは岩谷産業などが思いつくが、日本企業におけるクリーンエネルギーに関する投資は小規模なため、新しいニュースが発表されてもあまり株価には反映されない、というのが個人的な所感。BPなんかは割安だし、個人的にはオススメ。

BPはイギリス大手の石油・ガス企業。BPグループの親会社で、子会社を通じ、原油天然ガスの探査、生産、精製、販売、流通、輸送に従事。また、石油化学製品を製造、販売する。欧州、米国、カナダ、ロシア、南米、オーストラリア、アフリカで事業を展開。天然ガスを利用する太陽光発電風力発電などの代替エネルギー事業も手掛ける。本社所在地はロンドン。

 

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アラブ勢の動向

 こうしたクリーンエネルギーへのシフトを石油産出国であるアラブ諸国はどう考えているのだろう。基本的にはクリーンエネルギーへの投資戦略を明らかにしているが、現在の石油の貯蓄量や輸出量との比重などについては方針が明らかにしていない(少なくとも私がアクセスできる資料では確認できなかった)。

 

アラブ首長国連邦UAE)は2017年に「UAEエネルギー戦略2050」を発表している。

現在、UAE世界の水素燃料市場の25%のシェア獲得を目指しており、7つ以上の野心的なプロジェクトを実施しているという。ターゲットとする主要な輸出先には日本や韓国、ドイツ、インドなどが含まれており、再生可能エネルギー分野に6000ディルハム=1630億ドル)を投資する計画の監督を予定しているそうだ。

(個人的に「計画の監督の予定」って何なんだ、「計画している」でいいだろうと思うけど、何かしら意図があるのかもしれない)

また実際に「中東初のグリーン水素製造プラント」の建設が始動しており、現在試験が行われているという。

しかしながら、UAEの目標はかなり野心的なものだと私は感じている。

UAEエネルギー戦略2050」では国内発電におけるクリーンエネルギー(エネルギーミックス)の寄与度を25%から50%に上げること、発電のCO2排出量を70%削減すること、そして個人や企業の消費効率を40%向上すること。これらを2050年までに達成するという目標が掲げられているが、現在の進捗状況について具体的な数値は上がってきていない。

エネルギー価格の高騰を抑えるために非常用の石油備蓄を放出するという米国の計画について問われたマズルーイ大臣は、現段階でUAEが世界市場に対して貢献度合いを高める「合理的な理由が見いだせない」と答えた。

大臣は、12月に開催されるOPECプラス会議に向けて収集された技術データにおいて、2022年第1四半期には石油の供給余剰が発生することが指摘されていると述べた。また2022年第2四半期においても供給への懸念は不要であると大臣は付言する。

 

イスラエルの対アラブ方針の転換

 イスラエルのベネット首相は2021年12月13日にアラブ首長国連邦を訪問し、UAEの事実上の最高指導者でアブダビ首長国ムハンマド皇太子と会談している。経済関係の拡大を確認したほか、ともに安全保障上の脅威とみなすイランへの対応を協議したもよう。

イスラエルは20年、トランプ全米政権の仲介によりUAEバーレーンスーダン、モロッコと相次いで国交正常化に合意している。ネタニエフ前首相が2021年3月にUAEの公式訪問を計画していたが、隣国のヨルダンが搭載機の領空通過を認めなかったことにより、中止となった。

 英仏独中露がイランとの核合意の再建協議を11月末に再開したことに対し、イランを警戒するイスラエルアラブ諸国の結束を強調する意図が見られる。

 

 

引用・参考

アフリカ、「グリーン水素」事業相次ぐ 欧州市場目指す: 日本経済新聞

グリーン水素で世界を牽引する国家となるか(チリ) | ビジネス短信 - ジェトロ

UAEエネルギー相「UAEが『中東初のグリーン水素製造プラント』を建設している」|ARAB NEWS

 

石油備蓄放出での各国協調と原油高の経済効果 | 2021年 | 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight | 野村総合研究所(NRI)

 

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